『 十二人の手紙 』(中公文庫)は、井上ひさしによる手紙形式の連作短編ミステリーである。 立場も状況も異なる手紙の差出人たち。彼らは一体どんな結末をそれぞれ迎えるのだろうか・・・?
ミステリーはネタばらしができないので、具体的なことはあまり言えないのだが、「相手の顔が見えない」「相手に手紙が届き、読まれるまでに時間差がある」など、手紙ならではの特徴が、時に読み手に緊迫感を与えたり、作中の巧妙なトリックに活用されているところが大変面白く読めた。
特に私が衝撃を受けたのは、施設に育った修道女の不幸な人生を描いた「赤い手」の章。 冒頭は「出生届」「死亡届」「洗礼証明書」などの公式の書類だけを並べて行き、公式文書に事実だけを淡々と語らせるという一風変わった手法がとられている。そして主人公の死後、一番最後に主人公となった修道女の手紙が登場するのだが、この演出が作中の悲壮感を一層引き立たせるものとなっている。この読後感は何とも言い難い。ぜひ本書を読んで体感いただきたい。 最終章の「エピローグ 人質」では、各章で展開されてきた人間ドラマが一点に集中、見事に回収されている。 各章の登場人物たちのその後がうかがえ、最後の結末にはあっと言わされてしまった。理不尽さを感じたり、納得のいかない終わりを迎えていた物語はここで本当の結末を迎える。物語はすでに「プロローグ 悪魔」から始まっていたのである。立てこもりを実行した犯人に要注目。これから本書を読まれる方は、ぜひ念頭において読み進めてみて欲しい。
なお本書の解説にて、各章のあらすじが端的にまとめられている。無意識のうちにさらっと流してしまっていた伏線などにも触れ、読者に改めて気づかせてくれる内容になっているので、忘れずチェックしておきたい。ただしネタバレは考慮していないので、こちらは純粋に本文を楽しんだ後、一番最後に読むのが吉である。
昨今は手紙をやりとりする機会もめっきり減ってしまった。人とのやりとりは電話やメールが主流だろう。 だが、アナログな手紙だからこそ生まれるドラマが、今はかえって新鮮に感じられるのではないだろうか。帯に踊っていた「どんでん返しの見本市」のキャッチコピーに偽りなし。おすすめ!
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