11月号 2018.11.1啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/
シンプルでいて、目を引く表紙の『表現の技術』(中公文庫)。本書はCMを軸に映画や小説まで、幅広いジャンルの表現方法を網羅した技法書である。 “予定調和は、表現の敵だ。すべての手法はそれを壊すためにある。” 数々のCMを手掛けてきた著者の言葉は力強い。 感動的な話で思わずうるっとしてしまった――一度はこんな経験をしたことがあると思う。 そもそも人が心を動かされるとは、どういった時に起こるものなのだろう。 著者によれば、人の感情とは常に揺れている振り子のようなもの。その振れ幅が大きければ大きいほど、私たちに感動をもたらすのだと言う。これは人が泣く場合も、ほぼ同じことが言える。 そして、私たちが心の振り子を大きく揺らす時、その前には必ずある心の動きが一つ入る。言われてみると成程、と納得するのだが、あなたにはその答えが分かるだろうか? ここで映像表現によく使われる方法をいくつか紹介してみたい。 まずは観客しか知らない視点から展開していく物語の例(空間を利用する手法)。こんな場面が例題として登場する。 女性が男性に告白されて喜んでいるシンプルな構図。そこに二人の背後からもう一人、じっ、と二人を見つめている女を加える。少し不穏な空気が漂う。これだけでも何かが起きそうな予感はするが、さらに様子をうかがう女に包丁を持たせてみる。もう見ている観客はハラハラして目が離せなくなってしまうのではないだろうか。極めつけに告白された女性の手に指輪を乗せる。この後起こるであろう悲劇がより強調されているのが分かる。思わず後ろー! と叫んでしまいたくなるような場面がこうして作られていく。 もう一つはもう少しシンプルに、ズレを作る方法。 警察官が取調べをしている。犯人と思わしき男がうなだれている、と言った構図である。だが、この立場が“入れ替わる”とどうなるだろう。取調べを受けているのは警察官で、先ほど取調べを受けていた男は取り調べる側に回っている。後は背景を掘り下げて行けば新しい物語が生まれそうだ。 他にも起承転結が実は難しいということや、小説は状況説明ではなく動きで表現することなど、はっとさせられるような表現方法が登場している。 短いCMの中で展開される小さな物語にも、実はたくさんのアイデアが詰まっているのだ。見覚えのあるCMも多数登場している。本書の著者の絵コンテと共に、ぜひ楽しんでみて欲しい。 今日からCMの見方が、物語の読み方がきっと変わる。
「 土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて」
【光文社新書】 藤井一至 著 ¥994
世界の土はたった12種類しかない。動植物の種類からすると、これはとても少ないように感じる。作者は世界の土を掘りに世界を巡る。人類100億人を、地球の未来を支えくれる本当に肥沃な土を探すためだ。そもそも土とはなんだろう。種類と言うがどう違うのか。そして土は一体どこからやって来るのか。読めば読むほど、とても身近であるはずの土のことをまるで知らないことに気づかされる。第1章の「月の砂、火星の土、地球の土壌」で完全に心を掴まれてしまった。少し専門的なところもあるが、丁寧に読み解いていけば土への興味が深まっていくはず。本書を読み終えた後は、日本の土壌がいかに恵まれているかを実感する。我々人類を養ってくれる土は、やはり地球にしかないのである。自分の足元をまずは見直す必要がありそうだ。
≪今月の担当≫ 奈良店 社員 加川弘一
最近は全く活字を読まなくなった。いや、読めなくなったのほうが正解であろう。 歳のせいか記憶力も落ちてきたことも影響があるが、目や耳から入ってくる情報量の多さについて行けない。もう、頭の中はパンパンで記憶に残らないのが今の現状である。 しかし、私事であるが孫が生まれた。ちょうど一歳半。絵本をくいいるように見ている。何回も同じ絵本を読んでくれとせがまれる。手で触り噛み付いたりしながらどんどんどんどん目や耳から吸収してゆく。その姿が愛らしい。 やっぱり五感で感じる事ができる本は大切だ。
季節が進み、朝晩の冷え込みが厳しくなってきました。寒さに弱い私は、先週より寝る前の読書タイムが椅子の上から布団の中に変わりました。しかし、これがよくありません。寒さに負けて布団の中に、眠気に負けて夢の中に・・・おかしい、物語の中に入っていたはずなのに。部屋の電気をつけっぱなしにして寝ていたことに、朝になってから気づく今日この頃です。
◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆
啓林堂書店ホームページ・外商部ページ(https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/)にて
更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!
「おすすめ児童書」「おすすめの奈良本」12月号は、11月下旬に更新予定です!お見逃しなく!
おすすめ児童書
『たったひとつのドングリが すべてのいのちをつなぐ』【評論社】ローラ・M・シェーファー、アダム・シェーファー/文
たったひとつのドングリから木が育ち、鳥が巣を作り、落ちた種から花が咲き・・・。身近なドングリを通して、自然のしくみをわかりやすく描いた絵本です。あとがきの「わたしたちにできることは?」で語り合ってみるのもいいですね。
おすすめ奈良本『奈良 鹿ものがたり』 【佼成出版社】 中村文人/著 11月28日発売予定
観光地でにぎわう奈良公園には、約1300頭の鹿が暮らしています。それはなぜか?平安時代までさかのぼる鹿の歴史、知られざる野生の生態など、奈良の鹿について理解が深まる本。
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