4月号 2021.4.1啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/
英語に対しての苦手意識が抜けない。
文法でがちがちに語られると一気に拒否反応が出てしまうのは学生の時からだ。英文和訳で意訳し過ぎと注意されたのも一度や二度ではないと記憶している。
だが、今回手にとった『翻訳教室 はじめの一歩』(ちくま文庫)はそれでも内容が面白く、大変引き込まれた。序章で意訳と翻訳と英文和訳の違いも丁寧に紹介されており、なるほど、と納得した次第である。
そもそも翻訳とは何なのだろう。問われて最初に思い浮かべるのは、おそらく「他言語を自分たちの言葉に移すこと、書き換えること」だろうか。
そうなると当然、まずは原文をよく読まなくては最初の一歩も踏み出せない。しかし、実際に言語を置き換えようとしてみると…
著者によると、訳者というのは、まず読者であるということ、翻訳というのは、「深い読書」のことだという。
“よく読めれば、よく訳せる”、と本文にも出てくるのだが、原文を深く理解し、自分の中で消化していなければ真の意味での翻訳にはならない。
“翻訳とは言ってみれば、いっとき他人になること”。共感であれ、反感であれ、作中に登場する人物へ深く寄り添おうとする姿勢が大事で、翻訳の質にも大きく影響するということのようだ。
本書では名作絵本『The Missing Piece(ぼくを探しに)』を題材に、特別授業で翻訳に挑戦する子どもたちの様子が紹介されている。それぞれの班に分かれ、辞書を片手に翻訳に挑戦する子どもたちの様子は、慣れない英語に悪戦苦闘しながらも、みんなと相談しながら、そして自分たちの想像力をフルに働かせて、とても生き生きとしていた。
作者の予想を超えた訳を次々と出してくる小学生ならではの柔軟性が読んでいて本当に面白い。主人公の一人称「It」をどう訳すのか? 各班に分かれた小学生たちそれぞれの翻訳にぜひ注目してみて欲しい。
なお、この特別授業を受ける子どもたちには、事前に「わたしは世田谷線」という作文の宿題が課された。実際に翻訳していく前に、登場人物に深く寄り添うための想像力をウォーミングアップするためである。
無機物の気持ちになって書く、という少し難しそうなお題だったのだが、お客を乗せて走る電車の気持ちになってみたり、世田谷線の歴史を一人語りのようにしてみたり…同じ題材でも様々な視点が登場したところに小学生の想像力の豊かさを感じた。
こんな翻訳授業をもっと早くに受けていれば、英語が好きになっていたのかもしれない。おすすめ!
「できない脳ほど自信過剰 」
【朝日文庫】 池谷裕二/著
「週刊朝日」の連載エッセイに掲載されていた様々な脳の話がこの一冊に。
“人の選択は、理詰めではなく、驚くほど感覚的で、ときに不条理”。本書で「おとり効果」として紹介される例は、私達の普段の生活でもよく見かける選択の場面だ。本当にお得なリンゴのセットはAかBか。それとも追加されたCか? 普段は意識していない脳のクセに、あなたもきっと心当たりがあるはず。
また、考えるのは人だけではない。「取り逃がしたエサ」を後悔するネズミの話などは、思わずネズミに親近感がわいた。
一度は聞いたことのある話から、思わず唸ってしまう話まで。目次の見出しを眺めてみると、一つは心惹かれるものがあるはず。気になった項目からぜひ読んでみて欲しい。
≪今月の担当≫ 新大宮店 社員 籠谷淳一
書店で働いていると、今まで見落としていた興味深い書籍にであう機会が増える。中には今まで手を付けたこともないジャンルの本でも、休憩中につい立ち読みしてしまうほどだ。「仮にも書店員なのだから買いなさい。」というご指摘が聞こえてきそうだが、私も本当は家でのんびりと読書に興じたい。しかし、残念ながら自室の方が悲鳴を上げており買っても置く場所が・・。その為、泣く泣く欲しい本を諦めている今日この頃である・・。
最近めっきり暖かくなってきました。暖かさに負けてついぼーっとしてしまうのですが、“「ぼうっとしている」のは、怠惰なようでいて、直前に習得した情報を定着させる大切な「脳作業」”、と今回紹介した『できない脳ほど自信過剰』でも紹介されていたので、時間があるときは堂々とぼんやりしていようと思います。
◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆
啓林堂書店ホームページ・外商部ページ( https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/ )にて、更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!
おすすめ児童書
『あしたもあそぼうね』
【金の星社】
あまんきみこ/作 いもとようこ/絵
こうさぎのぴょんこ、こぐまのくうたは、いつもひとりで遊んでいます。
ある日、桜が満開の広場で「さくらこ」という女の子に、それぞれ出会います。
さくらこは、誰かと一緒に遊ぶって楽しいね、と教えてくれました。
さあ、ぴょんことくうたは、出会ってともだちになれるかな。
外商部おすすめの奈良本
『藤原仲麻呂政権の基礎的考察』
【志学社】木本好信/著4月5日発売予定
わが国における律令官僚制政治は、その本格的導入をはかった藤原不比等の孫・仲麻呂に至り、いちおうの完成を見ることとなった。本書では、仲麻呂政権の特質と、前後も含めた政治史を仔細に検討することで、「女帝の時代」であり「太上天皇の時代」でもある奈良朝における最大の問題である、「天皇専権」と「貴族専権」のせめぎ合いの実相を解明するものである。
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