12月号 2021.12.1啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/
「個性」とは何か? 著者によると、生物の世界では「個性」という言葉は「多様性」におきかえられるのだという。「多様性」とはいろいろな種類、性質があることを指す。 自然界には様々な生物が存在し、互いに関係しあって生態系を作り上げている。また、同じ生物種をひとつ例にとってみても、例えば犬にはマルチーズや柴犬といった多様な犬種が存在する。さらに同じ犬種の中でも、個体によってその性格は臆病であったり好奇心旺盛であったりと様々だ。
今回ご紹介する本は、そんな生物の個性に注目した『はずれ者が進化をつくる 生き物をめぐる個性の秘密』(筑摩書房)。 本書では「個性」「ふつう」「区別」「多様性」「らしさ」「勝つ」「強さ」「大切なもの」「生きる」という9つのキーワードを元に、生き物をめぐる個性についての秘密を紐解いていく。
雑草生態学を専門とする著者。研究のために雑草を育てているのだそうだが、これが難しいのだという。種を播いて水を与えても思うように芽が出ない。忘れたころに芽が出ることもあるかと思えば、ずっと芽を出さないこともある。芽が出たとしても背丈はバラバラ。管理する側は大変だ。 だが、もしこの雑草が皆同じ背丈になった場合、雑草たちの浴びる日光の量はどうなるだろうか。芽が出たタイミングがそろって同じだとしたら? たまたま寒い時期に一斉に芽を出したとしたら、寒さに耐えかねて同じ種はみんな枯れてしまうかもしれない。これは雑草の生存戦略なのである。
昔、ジャガイモの疫病が大流行して、アイルランド国中のジャガイモが壊滅状態に陥ったことがあった。 19世紀のアイルランドでは、ジャガイモが重要な食料となっていた。そのため、収穫量の多い人間にとって都合のよい「優秀な株」だけを増やし、一つの品種しか栽培しなかったのである。だが、この品種は、胴枯病(どうがれびょう)という病気に弱い品種だったため、アイルランド国中のジャガイモに病気が蔓延してしまった。「個性の喪失」が、アイルランドのジャガイモを危機に陥れたのである。
生きるということはどういうことかを生物から学び、多様性についての大切さを考えさせてくれる良書。 生物の世界はナンバー1でなければ生き残れない。だが、この世界には様々な環境がある。大切なのはもっとも自分らしさを発揮できる場所、オンリー1のナンバー1になれる場所を探すことだ。「飛ぶことに憧れるダチョウ」では、強みである地上での足の速さが生かせず、あまりに勿体ない。
中高生を対象にした読みやすい文体になっているが、大人も深く考えさせられる内容となっている。興味がわいた方はぜひ。
「10歳からの考える力が育つ20の物語 童話探偵ブルースの「ちょっとちがう」読み解き方」
【アスコム】 石原健次/作 矢部太郎/絵
童話探偵とは、世界の名作童話を読み解き、現代に活かす新しい解釈を見つける探偵のことである。 毎日オフィスに届く1通の「依頼書」。主人公の童話探偵ブルースと、その秘書シナモンは届いた「依頼書」の指示にのっとり、「アリとキリギリス」「泣いた赤鬼」「ごんぎつね」など、さまざまな童話の世界の登場人物たちがその時何を考え、行動していたのか理解を深めようとするのだが・・・? それぞれの物語を読み進めながら、読者はブルースたちと物事を様々な角度から考えることの大切さを考えていくことになる。 童話の世界でブルースの見つける新解釈とは? そして読み解きを通してシナモンが見つけた答えとは? 二人の結末にも要注目!
≪今月の担当≫ 商品部 部長 佐藤篤志
SDGsとはこれからの時代に必要とされる17の取り組みなのだが、世界平和や貧困問題、温暖化対策などとても大きな難題でどうしても実感がわきにくい。しかし常に考えることはしていきたいし、出来れば日々の生活にも取り入れたい。書店人としては、ネットで調べるのではなく書店店頭で関連書籍を探すことも少しは節電になっているかもしれないと思うことにしよう。
あっという間に師走です。手がかじかんで外で読書をするのが厳しい季節になりました。 読み終えていない積読の山を眺めつつ、今年も来年持ち越しの本が多そうだな、と早くも予感しています。
◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆
啓林堂書店ホームページ・外商部ページ( https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/ )にて、更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!
おすすめ児童書
『ばばばあちゃんのマフラーどうぶつたちのあきのおたのしみって? 』
【福音館書店】さとうわきこ/文・絵
ばばばあちゃんのマフラーはいろいろなことに役立ちます。 鳥の巣になったり、傘になったり、ぼろぼろになっちゃうけどばばばあちゃんはとっても楽しそう。 かぜをひいたおつきさんにもマフラーをあげる約束をするのですが、遠いおつきさんにはどうやって渡すのかな。
外商部おすすめの奈良本
『聖徳太子像の再構築』
【敬文舎】小路田泰直、斉藤恵美/著12月10日発売予定
日本の聖地として、日本人の心の拠所として繁栄を続けた奈良。その奈良の聖地化にとっては、天武朝以降の聖徳太子信仰の広がりが決定的な役割を果たしたと思われる。その意味で、聖徳太子1400年遠忌の年に、奈良女子大学が聖徳太子について何も語ろうとしないのは、かえって不自然だと考えたのである。
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