1月号 2023.1.1啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/
“校正者にとっては百冊のうちの一冊でも、読者にとっては人生で唯一の一冊になるかもしれない。誰かにとっては無数の本の中の一冊に過ぎないとしても、べつの誰かにとっては、かけがえのない一冊なのだ。”
そんな帯のキャッチコピーに惹かれ、今回手にとったのは「文にあたる」(亜紀書房)。
校正者である著者が、1冊の本ができあがるまでの校正・校閲の仕事について語ったエッセイだ。
校正とは、誤字脱字や文章表記の修正を行うこと。校閲は文章に書かれている内容に誤りがないかなどを確認することだ。著者の場合は、この両方の仕事を校正者として請け負っている。
校正における失敗とは誤植を出してしまうことだ。しかし実際のところ、誤植がゼロの本を作ることは難しく、校正とは常に失敗している仕事だと著者は語る。
人間の目は優秀で、少しの文字誤りは勝手に頭が修正して正しく読んでしまう。
本を読む仕事でありながら、読書するときと同じように本を読んでいては誤植を見落としてしまう。まずは誤植の見落としがないか文字一つ一つを注意深く確認、その後、文章全体に目を向け、書かれている内容に誤りがないかの調べ物を行う。異なる読み方で文章を精査するという、丁寧でなんとも手間のかかる仕事だと言える。
少し意外だったのは校正時のペン入れ。元の原稿に赤がたくさん入っていく印象が強かったのだが、著者の場合は手書き原稿の入力ミスで原稿とゲラが違うときや、初校への赤字が反映されていないとき以外、赤鉛筆はほぼ使わないのだそうだ。(ただし、現場によってこの状況は変わるだろうとのこと。)
一口に校正と言っても、その媒体によって求められるものは異なる。
例えば、新聞やノンフィクションのような事実を伝えるためのメディアは、正確であることが大前提になるが、小説は一概にそうとは言えない。登場人物の記憶をたどる描写であれば、記憶が現実と不一致を起こしている、という描写をしている可能性も考えられるだろう。
文芸誌は時として、文法的な正確さや論旨の明解さより、著者の文体、表現としての意図が優先されることもある。
そのため、校正者は赤鉛筆ではなく疑問を黒鉛筆で入れ、校正者は「事実としては、こうではありませんか」と指摘する。採用するかどうかは編集者と著者の判断次第だ。だが、例えそれで指摘が採用されなかったとしても、その指摘は無駄にはならない。もし出版社に同じ件で読者から問い合わせがあったとき、編集者は著者がその表現を選んだ理由を伝えることができるからだ。校正者の仕事は世に出た文章をより強靭にするのである。
本書を読んでいると、言葉の端々から謙虚な姿勢の著者が見えてくる。常に言葉と真摯に向き合い、多くの辞書と膨大な資料にあたる著者の姿がありありと想像できることだろう。おすすめ!
「笑顔のつぎ木 東京藝大・クローン文化財」
【東京美術】
宮廻正明、深井隆/監修 IKI/編著
「クローン文化財」とは、古くより伝承されてきた伝統的な模写などの技術と、現代における最新のデジタル撮影技術や2D・3Dデジタル技術を融合させた、複製文化財のことである。
貴重な文化財の保存は、展示によって傷んでしまうという問題を常に抱えてきた。本書で紹介される「クローン文化財」はそんな美術展示の方法についての可能性を広げ、戦争などの事情によって流出・劣化・消失した世界中の文化財を精緻に復元しようと試みる。
実際に復元した世界の文化財の制作過程を解説しつつ、「クローン文化財」の全容に迫る。
≪今月の担当≫ 外商部 社員 上田輝美
普段から本の整理ができていない自分が悪いのだが、本を探していて、目当てのものと違う本を引っぱりだしてきてしまうことがよくある。本を連れてきて、さぁ、読みかえそう、という時になって、ようやく人違いならぬ本違いに気づくのである。
廉価で持ち運びにも便利な文庫はよく購入するが、背表紙、裏表紙は似ているものも多く、著者別に色が統一されているような出版社の本は、裏表紙を向いているとすぐに間違えてしまう。
だが、元より急いた読書ではない。こんな本もあったなぁ、と興味が移れば、そのまま気にせず連れてきた本を再び読み返すなどしている。
あけましておめでとうございます。心機一転、新しいブックカバーでも買ってみようかと手に取ったのも束の間、いや、それならもう一冊本が買えるな・・・? と気づき、すぐに棚に戻してしまった自分です。
◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆
啓林堂書店ホームページ・外商部ページ( https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/ )にて、更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!
おすすめ児童書
『おにぎりをつくる』
【ブロンズ新社】
高山なおみ/文 長野陽一/写真
おにぎりの作り方を教えてくれる写真絵本です。
まず、お米を計って、洗って、炊飯器に入れてスイッチオン! 炊けたら、さあ、にぎりますよー。
大きい手なら大きなおにぎり、小さい手なら小さなおにぎりが出来上がります。
自分で作ったおにぎり、おいしいだろうなあ。家族にも作ってあげたら喜ぶかな。
外商部おすすめの奈良本
『文化財をしらべる・まもる・いかす』
【アグネ技術センター】
早川泰弘、髙妻洋成、建石徹/編
1月10日発売予定
文化財を護り伝えていくうえで、大切なことは「保存」と「修復」である。人々が文化財を大切に保存し、適切な修復を行ない続けてきたからこそ、我々は多くの文化財を目にすることができる。
本書は独立行政法人国立文化財機構に所属する保存・修復の担当者が最前線の活動の一端を紹介するものである。
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