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小説の小説 2022.10.3

10月号 2022.10.3
啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/8

小説の小説

 今回ご紹介する本は「小説の小説」(KADOKAWA)。著者は「楓ヶ丘動物園シリーズ」や「戦力外捜査官シリーズ」などで知られる似鳥鶏だ。今回はミステリではなく、メタ・フィクションでの登場である。

メタ・フィクションとは、「小説の約束ごとを利用した小説」のこと。普段は意識をしていないが、小説は読者と作者の間にある多くの暗黙の了解から成り立っている。では、その約束ごとが守られていないとどうなってしまうのだろうか?

 

最初に登場する「立体的な藪」の題材は推理小説。事件現場に出くわした探偵は、いつものように推理を始めようとするのだが・・・

なぜ推理小説が成立するのか? 後半のルビの密度と注釈の長さを見ると思わず笑ってしまう。なかなかここまでルビと注釈に注意して普段は本を読まない。

 

次に登場する「文化が違う」はタイトルの通り、文化の違う異世界に迷い込んでしまった主人公の話だ。

外国で日本語の言葉が全く違う意味で使われている、ということがまれにあるが、本書はそれを極限まで突き詰めて話を展開する。

言葉はほとんど同じなのに、一部の言葉のニュアンスや意味がまるで違う異世界に迷い込んだ主人公。仲間たちと共に様々な困難に立ち向かい、いよいよ元の世界に戻れるのか、ヒロインとの関係はどうなるのか――と話が盛り上がってきたところで浮上する最後の問題。果たして主人公の選択は?

随時読者の想像力が試されている気がする。ある意味おそろしい異世界ファンタジー。

 

「無小説」は全文で小説とは何か、を問う ×××小説である。なお、×××に入る言葉は140ページに答えが載っている。

初めは本文を真面目に追いかけていたのだが、途中で注釈を眺めて楽しむものだと気づき、本文を追いかけるのは諦めた。

小説はただの文章の羅列ではない。普段いかにリズムや構成で心地よく読まされているのかを実感した。小説とは何なのだろうか。

 

はたしてどこまでが小説と呼べるのか――「日本最後の小説」では、表現の自由について問いかける。

新法が成立し、検閲が合法化された世界。小説家と編集者を中心にした物語なのだが、話が進むにつれ、緊迫感をともなって小説は表現の方法自体も形を変えていく。

フィクションではあるのだが、本のあり方について今一度深く考えてしまった。こんな社会は願い下げである。

 

本のカバーにかかっている帯を取ろうとして驚いた。大きなカバーを下で折り返して帯風にしてあるのだ。カバーを開くと、折り返しの内側から隠されたイラストが登場する。なお、カバーの裏側には「咬みつき小説」が収録されている。

遊び心満載のこの1冊は、著者だけでなく、編集者も苦労が多かったとあとがきで知れるところも面白い。普段小説を読み慣れている人ほど戸惑う構成になっている。気になった方はぜひ。

<今月の私の一冊>

ルポ 誰が国語力を殺すのか

【文藝春秋】

石井光太/著

 

 「ごんぎつね」が読めない子どもたち、反省文を書けない高校生、交際相手に恐喝されても被害を認識できない女子生徒・・・にわかには信じがたい話が登場する。複雑な自分の思いや気持ちを的確に言葉で表現することが重要だ。会話を短い粗雑な単語で済ませていては、対人関係にも影響を与える。

 子どもたちの取り巻く環境、社会の問題について今一度考えさせられた1冊。

ミニコラム「私と本」

≪今月の担当≫ 生駒店 店長 渡部大輔

 

 先日、私事だがはやり病にかかってしまい10日間の自宅療養をすることになった。

 幸い軽症だった為3、4日ほどで回復していき、残りの待機期間を余儀なく自宅で過ごすことになった私は、積読していた本を読むことにした。

 一気に全部を読むことはできなかったが久しぶりにゆっくりと本を読むことができた。

 10日間も休んでしまった事に落ち込んでいた心が少し軽くなった気がした。

 改めて本の良さを知ると同時に健康でいることの大切さを知った10日間だった。

Chat&Chat

 昔読んだ本、確かに買ったことも覚えているのに、どこにしまいこんだのかわからない本が山ほどあります。探し物ほどみつかりません。

◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆

啓林堂書店ホームページ・外商部ページ( https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/ )にて、
更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!

おすすめ児童書

ひろった・あつめた ぼくのドングリ図鑑

【岩崎書店】

盛口満/絵・文

 

 開いたページいっぱい、ドングリがきれいに並んで描かれています。

 コナラの木のドングリ、クヌギの木のドングリ、木が違うとドングリの形も違います。

 自分で拾ったドングリはどこにあるかな。探してみよう。

外商部おすすめの奈良本

正倉院宝物を10倍楽しむ
【吉川弘文館】
山本忠尚/著
10月22日発売予定

 

 1300年の時を超え、天皇家と東大寺により守られてきた正倉院宝物。聖武天皇ゆかりの品、異国風の工芸、シルクロードや唐からもたらされた文物まで、その内容は多彩である。メッキや代用の技法、天馬や麒麟といった架空動物の意匠、象牙や翡翠などの素材から、めくるめく天平の美術を解説。古代の造形の粋をあつめた豊穣な世界へといざなう。

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