8月号 2020.8.3啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/
偽書。著者や成立年代について、事実とは異なる由来を主張する書物のことである。 「なぜ、偽書は横行し続けるのか?」 本書『偽書が揺るがせた日本史』(山川出版社)は、日本の歴史に登場したさまざまな偽書を取り上げ、それぞれの時代における日本人の思考・欲求を読み取ろうとしている。
本書のテーマは大きく分けて3つ。「Ⅰ 時代への欲求が生み出した偽書」「Ⅱ 偽書と陰謀論」「Ⅲ 歴史資料として偽書をどう扱うか」。なぜ偽書が生まれるのか、古代以来の足跡をたどる。また、偽書と結び付けて語られやすい陰謀論の捉え方であったり、歴史資料として偽書をどう見ればよいのか、などその扱い方を考察している。 今回は「Ⅰ 時代への欲求が生み出した偽書」に登場する偽書を3点紹介する。
織田信長の妻と聞けば、まず帰蝶を思い出す方も多いだろう。だが、信長には他に最愛の女性がいた――? 生駒吉乃が登場するのは前野家文書の一つである「武功夜話」。信長との間に3人の子をもうけ、正室同等の扱いを受けていたともされるが、生駒吉乃の話は創作である。 有名な武将の知られざる話となると人はどうしても興味を惹かれる。また人物ゆかりの地、などとして町おこしの一環にも活用されたために、広く人々に受け入れられてしまったタイプの偽書だと言える。
稀代の偽書群「椿井文書」。こちらは近畿圏広域をカバーする貴重な資料として長らく郷土史教材として活用されてきた。偽書群、とされるように「椿井文書」の点数は膨大。それぞれの偽書に信憑性を持たせるため、異なる資料同士につながりを持たせるなど、その作成方法はかなり綿密だ。しかもこれらの資料がある一人の人物により作成されていたというから驚く。なぜ、偽書づくりにそこまでの熱意を注いだのか? 偽書作成に至った経緯にもこちらは注目頂きたい。
文学作品の偽作も紹介されている。谷崎潤一郎の未発表戯曲「誘惑女神」の原稿が発見されたと、こちらは実際に新聞にも掲載された。一時は著名な作家もその作品を絶賛するなど話題になったものの、同時代に谷崎潤一郎・坪内逍遥の名を騙り、新聞社・雑誌社に自身の作品を売りこんでいた者がいたことを研究者が突き止めたのである。現在「誘惑女神」が谷崎の作品として話題にのぼることはない。 詐欺師の作品が当時公平な目で見られることはなかっただろう。しかし、著名な作家の名で出しても遜色のない実力を持っている点を考えると、大いにもったいない話である。
偽作者の想像力の有り様や、それを受け入れ信奉する側の心理、社会的影響などに重点を置いて、調査や考察を行う、という著者の姿勢に好感が持てる。 少し知識が必要な内容ではあるが、Ⅰ章の中頃より、より面白く読める内容となっている。何を信じ、どう考えるか。本書をきっかけにしてみるのもいいのではないだろうか。
「愛犬の日本史 柴犬はいつ狆と呼ばれなくなったかいろはで学ぶ!くずし字・古文書入門」
【平凡社】 桐野作人、吉門裕/著
面白い切り口の新書が刊行された。昔から犬は人のパートナーとされてきたが、犬が人とどのように関わってきたのか、人と犬の関わりの歴史を知ることができる1冊となっている。「秘蔵の洋犬」をめぐる薩摩島津家の20年戦争は、くわしい犬種こそ不明なものの、当時評判であった犬が盗まれたことではじまったというから驚きである。ほかにも、江戸時代には当然まだいない、と思っていた意外な犬種が、実はすでに日本にいた…!? など、衝撃の事実が知らされる。人間と犬の関わりは昔から深いと改めて感じた。
≪今月の担当≫ 外商部 社員 上田輝美
学生の頃、授業の一環で本箱を作った。板の高さをミリ単位で調整し、お気に入りの本が判型を気にせずきれいに並べられるようこだわったのをよく覚えている。 そこから蔵書は増え、今は本棚を使っているが、本の高さが微妙にはまらないため少し使い勝手が悪い。そのため入れ方を工夫する。発行元により高さが異なる文庫や新書を組み合わせ、まるでパズルのような様相だ。だが入れ方を悩んでいるときは結構楽しい。 本が増えすぎて当時作った本箱では到底入りきらない冊数になってしまった。だが当時の本箱は今も現役。今日も変わらず本がきれいに並んでいる。
新刊だと思って手に取った文庫、中身は同じでカバーだけが新調されているものでした。危うく同じものを2冊購入するところでした。
◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆
啓林堂書店ホームページ・外商部ページ( https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/ )にて、更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!
おすすめ児童書
『オニのサラリーマン じごくの盆やすみ』
【福音館書店】 富安陽子/文 大島妙子/絵
じごくで働くオニのサラリーマンのおはなし。亡者がお盆に里帰りしている間に、オニたちがじごくを大そうじ、力を合わせてピカピカにします。その時、オニがかなぼうを池の底に落としちゃった! すると女神が現れ「落としたのは、金のかなぼう? 銀のかなぼう? ただのかなぼう?」と聞きます。オニは正直に答えたかな。うそをついたら、えんまさまに舌をぬかれちゃう。
外商部おすすめの奈良本
『室町幕府分裂と畿内近国の胎動』
【吉川弘文館】 天野忠幸/著 8月4日発売予定
十六世紀前半、明応の政変などを経て室町幕府は分裂。分権化が進み、新たな社会秩序の形成へと向かう。三好政権の成立、山城の発展、京都や大阪湾を取り巻く流通などを描き、畿内近国における争乱の歴史的意味を考える。
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