5月号 2019.5.1啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/
5月に入り、元号が令和になった。 万葉集が出典の元号とのことで、これから様々な関連書籍が出そろってくることと思うが、すでに刊行されている万葉集の入門書は読んでみた、基本知識はおさえた、という方もおられると思うので、少し違う視点の書籍を今回は紹介してみたい。 上野誠氏の「万葉集から古代を読みとく」(ちくま新書)。 冒頭にも記したとおり、本書は普通の『万葉集』の入門書ではない。「古代社会において歌とは何か、古代社会において『万葉集』とは何であったのか、を考えるヒント集、提案集」となっている。 2017年刊行当時、まだあまり注目されていなかった木簡資料に着目しているのも特徴だ。 もう少し万葉集に深入りしてみようという方は、ぜひ一読してみて欲しい。万葉集に留まらず、古代文化に対する考えも深まる内容になっている。 ▼語れば、その瞬間から消え去る ▽記せば、その瞬間から古くなってゆく これらは本書で歌の性質としてあげられている。著者によると「感動を未来に伝えようとする意志がなくては、歌は残りもしないし、歌集も誕生しない。」そして、「消えてしまう歌が残るためには、その歌を未来に伝えようとする意識と、音声を文字化する技術が必要」とのことである。 古代の人々の口伝え、文字による記録によって残されてきた歌。それにより私たちは現在でも当時の社会の様子、人々の心情を知ることができる。一例であるが、歌を詠むことを生業とし、当時の宮廷社会を生きた大伴家持の話が本書後半に登場しているので少し紹介。 大伴家持は天皇から歌を詠むよう賜った際にも対応できるよう、常に入念に準備をしていたようだ。ここでは表に出す機会に恵まれず、お蔵入りとなった歌が紹介されている。自らの心情を歌いつつも、天皇への感謝を伝えるのを忘れず、同席者への賛同をそれとなく促す。家持のテクニックが光っており、隙がない。披露されていれば天皇はもちろん、同じ空間に居合わせた人々にも好印象を与えたことは容易に想像がつく。 歌は当時、宮廷社会を生き延びるための術だったのである。詳細についてはぜひ本書で確認してみて欲しい。 「神代」から「いにしへ」(昔)、そして「うつせみ」(現世)へと歌い継がれてきた歌の数々から新たな驚きと発見がある。 少し難しいところもあるが、古典として万葉集を授業で習っていた頃には味わえなかった楽しさを知れる1冊である。なお、万葉集に収録されている「竹取翁」の話が、よく知られた「竹取物語」と全く異なっていてかなり驚いた。翁の印象がかなり変わる。
「天才と発達障害 」
【文春文庫】岩波明/著 ¥886
芥川龍之介、アインシュタイン、モーツァルト、野口英世・・・著者によると、歴史上の天才と呼ばれる人々には、精神疾患の傾向が見られることが多いという。彼らのような社会に影響を与える創造性は一体どこから生まれてくるのだろうか。そこにはある共通点があった。天才と呼ばれるような人々は扱いにくく、時に衝動的で、社会から排除されやすい傾向にある。天才の行動は常人には理解しがたく、危険なもののように思えるからだ。だが、それでは革新の芽を摘んでしまうことになる。第六章の「誰が才能を殺すのか?」は、今の日本社会や学校教育のあり方を見直すと共に、解決策を提案する内容となっているので要注目である。傑出した異能の人々を発達障害や精神疾患の視点から考察した一冊。
≪今月の担当≫ 外商部 表野弘樹
皆さんは“文庫のジャケ買い”をしたことがありますか? 私もいつかやってみようと思いつつ、ついつい裏表紙のあらすじを読んでから買ってしまいます。表紙やタイトルを見ただけで手に取ってしまうような魅力的なものも多いですよね。数年前には「文庫X」という表紙を隠して販売した書店が話題になりました。 書店では表紙を見せて陳列している棚がたくさんあります。並んでいる文庫たちの顔とにらめっこしながら「これは面白そうだ」と手に取りレジに持って行く姿を頭の中で思い浮かべながら、私の目線は裏表紙へ…。
5月のGW前にこのコラムを書いています。今年こそは! と毎年意気込んでいつもと違うジャンルの本を買ってみたり、積読になっていた本に手を伸ばしたりしているのですが、大体目標まで届かないことがほとんど。これはGWに期待しすぎているせいだと思い直し、今年はすでに積読本から数冊読み始めています。ただざっと見た限り、まだあと10冊は残っているのですが・・・。
◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆
おすすめ児童書
『ともだちや』【偕成社】 内田麟太郎/作 降矢なな/絵
「えーともだちやです。ともだちはいりませんか」キツネが1時間100円で友だちになってあげる「ともだちや」を始めました。その表紙のキツネの姿は、ともだちやをやるためには、どんなともだちが来てもいいように、うきわをつけて、バシバシ叩かれても大丈夫なヘルメットをかぶって・・・。キツネの覚悟が伝わってきます。ともだちって何だろう? と考えるきっかけになる絵本です。
おすすめ奈良本『神社に隠された大和朝廷統一の秘密』 【河出書房新社】 武光誠/著 5月1日発売予定
春日大社、諏訪大社、鹿島神宮、住吉大社など、全国の神社の祭神や神話を読みといていくと、大和朝廷が日本の全国支配をどのように進めたかが見えてくる! 画期的な視点で古代史を楽しむ書。
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