9月号 2024.9.2啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/
今回はかわいい語感とインパクトのあるタイトルで、気づけば手に取ってしまっていた本をご紹介。
タイトルは「しっぽ学」(光文社新書)。
本書は、文学部(考古学)、理学研究科(人類学)、医学研究科(生物科学)と様々な研究分野を渡り歩いた著者が、それぞれの異なる研究手法を用いてしっぽにアプローチをかけていくという、一風変わった内容になっている。
また、本書ではなぜ著者がしっぽを研究することになったのか、一つの研究分野や方法にこだわらない手法をとるようになっていったのかの経緯が語られる。
そもそもしっぽとは何だろう。本書では脊椎動物のしっぽを対象に扱うが、まずしっぽがしっぽであるためには、次の三つの条件を満たす必要があるという。
一つ目は生えている位置。しっぽのようなものが肛門あるいは総排泄孔より後方にあるのが一つ目の条件になる。二つ目は中身。しっぽのようなものの中に椎骨と筋肉があり、体幹の延長にあることが重要だ。いくらしっぽのように見えても、筋肉のかたまりで骨がなく、自由に動かせない場合にはしっぽとは呼べない。三つ目はかたち。しっぽの形は千差万別だが、からだの外に出ていなければ当然しっぽとは呼べない。これらの条件を満たすものを、本書はしっぽとして扱っている。
「しっぽ学」の研究はまだまだ発展途上だが、しっぽにまつわる様々な謎に本書は迫ろうとする。
例えば同じサルでもサルの種類によってしっぽの長さは違うのはなぜなのか? という謎には、それぞれのサルが生息している気候が、ある程度考えるヒントになるようだ。
また究極の謎である、動物にはしっぽがあるのに、どうして人間にはしっぽがないのか? という問いにも思考をめぐらせている。詳細は本書を確認してみて欲しい。
元々化石や骨に興味があり、大学は文学部の考古学専攻だった著者。だが、同じ骨でも動物骨を扱う動物考古学が文系の扱いになるのに対し、人骨、または骨になった動物たちの生態や行動の研究は理系の扱いになることに気づく。
これではネズミやカエル、鳥類の骨から周辺の環境について考えてみたいと思っても、動物の生態・行動の知識は理学部でしか得られない。ならば文理の壁を乗り越え、人骨や動物の知識を備えた研究者になろうと決意するのだが、当然その道は平らではなかった。
終始驚かされるのは著者の行動力だ。しっぽ学を極めるため、奮闘する著者の姿は見ていて応援したくなる。
何かを明らかにするのに、一つの方法や取り組みだけでうまくいく方が珍しい、とは著者の言葉。ライブ感あふれる、しっぽ学研究の一端に触れて、ぜひ、その魅力を感じてみて欲しい。
「記憶の深層 〈ひらめき〉はどこから来るのか」
【岩波新書】
高橋雅延/著
何事も覚えるのが苦手だ。苦手なだけでなく、覚えたつもりがひどい思い違いをしていた、ということも少なくない。 試験前に慌てて覚えた内容は、試験が終わるときれいさっぱり忘れてしまって長く覚えていられなかった、という方も多いのではないだろうか。 AIが存在感を増してきた現代。人間と違いAIは記憶が得意で、一度覚えたことは忘れない。人間のように記憶違いが起きるということもなく、これからの時代、あまり人間には記憶が求められなくなるのでは・・・とつい考えてしまいそうになる。だが、果たして本当にそうなのだろうか? 個人に蓄積された記憶があるからこそ、それぞれの個性が作られ、これからの時代に必要な創造性が生まれてくる。本書では記憶と創造性の密接な関係と重要性を説きつつ、人間の記憶と忘却のメカニズム、有効な記憶法などを実際の例を元に探る。記憶力にあまり自信がないという方も、ぜひ一度読んでみて欲しい。
≪今月の担当≫ 外商部 社員 上田輝美
岩波新書にはさまっているしおりが最近のお気に入りだ。踊り字についての紹介、本の部位の名称の解説など、読んでいて楽しい豆知識が色々載っているのだ。 今回手にしたしおりにはISBN番号の解説がされていた。そこでふと気になる。例としてあげられている番号は実在している書籍の番号なのだろうか? 早速検索をかけてみる。すると7年ほど前に発行された岩波新書が1冊ヒットした。今でも購入可能な本のようだ。 しおりコレクションは着々と増えている。次はどんな豆知識が載っているだろうかと、密かな楽しみにしている。
すぐに読んだ本の内容を忘れてしまうため、今回紹介した「記憶の深層」は読んでいて反省する点が多々ありました。本の表紙を見ると読んだ、読んでいないは思い出せるのに・・・ どうやら自分の記憶力はひどく偏っているようです。
◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆
啓林堂書店ホームページ・外商部ページ( https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/ )にて、更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!
おすすめ児童書
『シカしかいない』
【白泉社】キューライス/作
奈良といえば、鹿! みんなお馴染みの鹿しか出てこない絵本です。 人間っぽい鹿が銭湯へ行ったり、映画館へ行ったり、野球をしていたり。 すみずみまでよーく観察してみてください。鹿愛あふれる絵本です。 でも、鹿じゃないのもいたりして? 見つけてみてね。
外商部おすすめの奈良本
『茶湯秘抄』
【淡交社】神津朝夫/編集9月24日発売予定
奈良の塗師松屋の末裔、土門元亮が、松屋に伝わる「松屋会記」「松屋名物集」「利休・織部・遠州・三斎伝」などの茶書を五巻に編纂したのが「茶湯秘抄」。1738年(元文三)の奥書を持つ自筆本とされるものが三重県の石水博物館に伝わっています。道具や茶室などの挿図が豊富なのが特徴で、全巻通して300弱に及びます。また五巻には、現在の利休百首の元となる歌も。江戸時代中期の総合茶道書として、抑えておきたい一冊です。
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