1月号 2022.1.1啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/
あけましておめでとうございます。読んでいて楽しくなる一冊を今回はご紹介。 『「勘違い」だらけの日本文化史』(淡交社)。 本書では有職故実の史料をもとに、日本文化についての考察が行われる。網羅している古代から近代のうち、特に平安時代が多く取り扱われていた。興味のそそられた一部を紹介してみたい。
平安貴族の乗った「牛車」。のんびりゆっくり走るイメージがあるが、文献を見てみると牛車でレースをするほど速い乗り物であったことがわかるという。 鎌倉後期の「駿牛絵詞(すんぎゅうえことば)」には、賀茂の祭の白川中将伊長と二位法印御房俊玄のレースで、牛が溝の泥を蹴り上げ泥まみれになっている様子や、やり縄が切れても牛を制御しつづける果敢な牛飼童(うしかいのわらわ)の様子が記されているのだそう。名牛と名童あっての勝負だったようだ。なお、牛飼童と言うが、牛飼はいくつになっても童で、中には高齢の童もいたそうだ。 風のように走る足の速い優れた馬を「駿馬」というが、牛は「駿牛」と言う。そんな「駿牛」の引く牛車は快適な乗り心地とは無縁だったようだ。乗るのは一苦労だったようである。
平安時代の色男・ 在原業平。都で女性スキャンダルを起こし東下りとなったのだが、その理由についての考察。 鎌倉前期の無名抄に、女性の兄たちが怒りのあまり、業平の髻(もとどり・ちょんまげの事)を切ってしまったという記載があるそう。これは一大事である。なぜか? 当時の人々は冠や烏帽子をかぶっているのだから、何も問題はないように思える。だが冠も烏帽子も、実は髻を使って中でずれないように固定している被り物なのである。平安の都では、頭に何もかぶらず人に会う事はマナー違反とされた。つまり、「ちょんまげをきる」=「人前にでられなくなること」だったのである。人に会うことのできなくなった業平は髪が伸びてくるまでの間、東下り、となったのである。 しかし、ここで素朴な疑問が浮かぶ。加齢でやむなく頭が薄くなってきてしまった場合はどうしていたのか? 衝撃の事実に思わず声を上げてしまった。ぜひ、詳細を本書にて確認頂きたい。
他にも源氏物語の中で不美人と紹介される末摘花が、実は現在のハーフタレントのような美人だったのではないかとする面白い考察も登場している。末摘花の見方が随分変わる。こちらも必見。
日本文化の常識と思っていたことが、いかに現代人の勘違いや思い込みだらけなのかと考えさせられた。読んでいると原典にもあたりたくなってくる。おすすめ!
「絶滅危惧動作図鑑」
【祥伝社】 藪本晶子/著
おもしろいタイトルの本につい惹かれてしまう。 本書は最近見かけなくなった動作、また今後なくなるかもしれない動作をイラストと簡単な解説文で紹介した一冊。 「テレビをたたく」は薄型液晶テレビになってから久しく見ていないし、「ゲームのカセットをフーフーする」も、円盤形のソフト、データのダウンロードなど、カセットではないゲームの媒体がすぐ頭に浮かぶ。はたして今もカセットはあるのだろうか? なお、チャンネルを回す、DVDを早送りする、は元々の動作をすっかり見なくなったなと実感する言葉だろう。 絶滅危惧のレベル別で構成されている章は、年代や個人差によるところも大きいように思う。読後は様々な人の意見が聞きたくなる。
≪今月の担当≫ 外商部 部長 森川永夫
芥川賞・直木賞
最近、芥川賞・直木賞下期のノミネート作品発表がありましたが、影が薄く感じたのは私だけでしょうか?本屋大賞が創設されてからノミネート作品に関しては露出が少ない様な気がします。 そもそも芥川賞の芥川龍之介は「羅生門」などで有名ですが、直木賞の直木は一体誰なのか?又、直木賞は通称名で正式には直木三十五賞というのも、あまり知られていないのでは・・・ 直木三十五は明治から昭和初期に活躍した小説家、また脚本や映画監督としても活動されていた作家で、テレビ「水戸黄門」の原作者といえばわかる方も多いのではないでしょうか。直木三十一で31歳でデビューして毎年ペンネームを三十二、三十三と変えていたそうですが、直木賞創設者の菊池寛先生に叱られて直木三十五に定着したそうです。私も初めて知りました。 当たり前のように耳にしていましたが直木賞・芥川賞、この機会に改めて受賞作品に触れてみたいと思います。
店内をうろうろしていると、おいしそうなお鍋料理の特集本が並んでいるのでおなかが空いてきます。夕方に食品売り場に行くのは良くないとよく言いますが、どうやら私の場合は書店も要注意のよう。一度本を戻したのに、また他の本を手に取っているということがしょっちゅうあります。
◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆
啓林堂書店ホームページ・外商部ページ( https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/ )にて、更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!
おすすめ児童書
『あかいてぶくろ』
【小峰書店】 林木林/文 岡田千晶/絵
ちびちゃんがしているあかいてぶくろ。ある日、みぎのてぶくろを落としてしまいます。 そのてぶくろをきつねがひろって枝にかけます。 そのあとうさぎ、のねずみ、といろいろな動物たちに大切にされながら、りすのもとにきます。 とってもあたたかそうなあかいてぶくろ、あったらいいな。
外商部おすすめの奈良本
『邪馬台国再考 女王国・邪馬台国・ヤマト政権』
【筑摩書房】 小林敏男/著1月7日発売予定
畿内ヤマト国(邪馬台国)と北九州ヤマト国(女王国)は別の国で、卑弥呼は後者の女王だった。長年の歴史学の文献研究に基づき、古代史最大の謎を解き明かす。
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