3月号 2020.3.2啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/
今回ご紹介するのは東野圭吾の『 超・殺人事件 』(角川文庫)。帯の「ベストセラー作家の苦悩。」は謳い文句通りだった。本を読み進めながらこれはひどい! と何度言ったかしれない。一体どこまでがフィクションなのか、脚色はあれど現実にもあるのだろうか。ついいろいろと想像してしまう。
いずれもサクサクと読み進められる短編だが、傾向を手っ取り早く知りたい方は「魔風館殺人事件」を読んでみると分かりやすい。「名探偵の掟」や「○笑小説」シリーズの路線だなと私は感じた。
旅費を必要経費で落とすため、連載小説の事件の舞台は強引に北海道からハワイへ――。突如人気が出てしまったばかりに、税金対策に苦悩する作家の話。ラストの展開には納得せざるをえない。(超税金対策殺人事件)「超理系殺人事件」のタイトルに惹かれ手に取った小説。理系人間を自覚する主人公は専門用語飛び交う難解な小説をなんとか読み進めていくが……。私は早々に理解をあきらめたため、主人公のような結末を迎える心配はなさそうだ。(超理系殺人事件) 突如人気作家に呼び出された出版社の異なる四人の編集者。作家から指示されたのは雑誌に掲載予定の犯人あて小説の問題篇を読み、犯人を当てること。見事犯人を最初に当てた者には長編新作を進呈すると作家は言うのだが……。こんな作家本当にいそうだ、と感じる。(超犯人当て小説殺人事件)
書店が登場する話では、超長編小説殺人事件が印象的だった。原稿枚数でインパクトを生み、売れない作家の棚を確保しようと画策する編集者と、そのために原稿枚数のかさましを要求される作家の話である。本を売ろうとする努力は分かる。まず本を手にとってもらおうとする気持ちも分かる。戦略だとも理解できるが、それでも最後疑問が残る。作家の新作が売場に並べられている様子を想像してみるのだが、どうにも上手くいかない。表紙だと思っていた部分が本の背だったとはどういう状況なのか? その厚みが想像できない。確かに目をひくとは思うが、その本をどうやって読み、持って帰るのか……? 最後の編集の台詞は、「いや、勝負するところはそこじゃない」の一言に尽きる。小説ってなんだ、本ってなんだと考えずにはいられない。
超読書機殺人事件には高性能読書マシンという便利な機械が登場する。主人公は評論家なのだが、義理で頼まれた原稿が締切間近にも関わらず、作品に全く褒められるところがなく困り果てていた。そこへ営業マンの黄泉が現れる。この高性能読書マシン、本をセットするだけで本のあらすじを勝手にまとめてくれ、更に書評まで書いてくれるという優れものなのだ。しかも書評の段階はおべんちゃらモードから酷評までの5段階まで切り替え可能。SF要素も含んだ、ありそうな世界が展開されていく。 この話、主人公が分厚く枚数の多い小説に苦労している様子も描かれているのだが、「超長編小説殺人事件」と微妙にリンクする。果たして一体誰の、何のための小説なのか・・・
「読書って一体何だろう。」最後の一文に考えさせられた。これは恐らく作者からの問いかけだ。少し立ち止まって考えてみるのもいいのかもしれない。
「 夢中になる! 江戸の数学 」 【集英社文庫】桜井進/著
数学が娯楽として成り立っていた江戸時代。数学は人々にとって身近なものであった。江戸時代屈指のベストセラー「塵劫記」は、算術の教科書であるにも関わらず、当時の人気作家であった井原西鶴や十返舎一九の文学作品より部数を売り上げた。中身が充実していたことは勿論、装丁が豪華、内容も絵が入っていて分かりやすいと、本の質が高かったことも影響したようだ。日本で最初の多色刷りの本とも呼ばれ、これにより日本のカラー印刷技術は中国を抜いたとも著者は語っている。後の浮世絵ブームは「塵劫記」誕生による印刷技術の向上が遠因である。「塵劫記」に登場する九九、語呂合わせで覚えるところは今と変わらないのだが、一の段は覚えず半分の段だけを覚えると合理的。また、商いに使える割り算の九九が存在していた。特徴として、ねずみ算など人々の生活に役立つ計算方法が数多く収録されている。なお、当時活躍した和算家の関孝和、その弟子・建部賢弘の逸話も紹介されている。巻末に掲載されている問題にもぜひチャレンジしてみて欲しい。学ぶことの楽しさを思い出させてくれる本である。
≪今月の担当≫ 新大宮店 社員 籠谷淳一
皆様は読書という行為をどんな目的で行うだろうか。自分自身の知識を増やす為、運勢を知る為、娯楽の為。等々、様々だと思われる。私は専ら、非日常を求めて本を手に取る。如何なる理由も間違いではないだろう。いや、むしろ何気なく手に取った本こそが、今、本当に読みたい本なのではないだろうか。そして、それが読書を楽しむという事に繋がるのだと思われる。 お客様にも純粋に読書を楽しんで頂けるような空間と商品を提供出来ていれば幸いである。
ご紹介した「夢中になる!江戸の数学」を読みながら、ちくま学芸文庫の「算法少女」を思い出していました。江戸時代の庶民の計算レベルの高さがうかがえる物語です。こちらも興味があればぜひ!
◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆
啓林堂書店ホームページ・外商部ページ( https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/ )にて、更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!
おすすめ児童書
『 おとなからきみへ 』
【あわわ】
サトシン/作 羽尻利門/絵
タイトル通り、おとなからこどもへのメッセージがつまった本です。「おとなってすばらしいし、たのしいんだ。このすばらしさはおとなになってみないとわからないんだ。」おとなになることへの不安を、明るく、楽しい文章にしています。歌にもなっていて、CDがついています。元気に歌ってみるのもいいかも。
外商部おすすめの奈良本
『 図典「大和名所図会」を読む 奈良名所むかし案内 』
【創元社】本渡章/著
原寸復刻された迫力ある名所絵を読み解き、江戸時代の奈良へ誘う案内書。約180点超に及ぶすべての絵図も縮小掲載し、地名やキーワードで引ける画期的な図典。
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