4月号 2019.4.1啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/
本書に紹介されていた、ある時代劇の予告編の話である。 殿様の命令に主人公が「御意!」と答えた。別によくありそうな話に聞こえるが、実はこの台詞は間違い。「御意」は「あなた様のお考えの通りです」で、「了解しました、承知しました」の意味にはならないからだ。 ではこの場合、「了解」の意味にするにはどうすればよかったのだろうか? 今回ご紹介するのは「考証要集 秘伝!NHK時代考証資料」(文芸文庫)。NHK 制作現場の内部資料を元にしてできた、簡易事典、と言った体裁の本である。 事典と紹介した通り、気になる用語をひとつずつ取り上げ、その初出や使用例などを紹介していくスタイル。項目がそれぞれ独立しているため、前から読み進める必要は全くない。ぱらぱらと適当にページをめくって、気になったところから読んでみる。そんな読み方が可能な一冊になっている。 ちなみに冒頭で紹介した「了解」の答えは「御意のままに!」となるそうだ。いくつか紹介されていた例を見ていこうと思う。 例えば「元気」という項目。この言葉は江戸時代前期の貝原益軒の文章に登場するが、1603年から1604年にかけて長崎で発行された『日葡辞書』には登場しないという解説になっている。代わりに「験気」(げんき)という言葉が、ほぼ同じ意味で使われているそうだ。 では、元気であることを相手に伝える場合、戦国時代を舞台にした話ではどう表現するのがいいのだろう? まず、上げられている答えの一つは「息災」。皆さんも一度はどこかで聞いたことのある言い回しだろう。ただ、答えは一つとは限らない。その他詳細については、本書をぜひ確認してみてほしい。 高貴な身分の人が移動手段として使う駕籠。紹介されているのは「駕籠の担ぎ方」である。ここで問題になるのは肩の入れ方。右と左の肩で交互に入れるのは間違いである。これは大きい駕籠でも条件は同じ。では肩を入れにくい場合は一体どうしたらいいのか? そんな応用編も本書では紹介されている。 なお、理解も整理も難しいのが旧日本軍の用語やルールである。陸軍と海軍ではそもそもルールが違う、呼称も違う。そして今の自衛隊とも当然違う。戦闘機、駆逐艦……何気なく聞いている言葉を、正しく理解していないことがよく分かる。ドラマを作るとなると、非常に神経を使いそうなジャンルである。 好評だったのだろう。実は本書の続編にあたる2巻が12月に出版された。 「完全な史実ではないフィクションだからこそ考証は大事」、と著者は言う。ただ、「史実にこだわり過ぎるとつまらなくなる」のも事実。「ドラマに求められるのは「正しい史実」ではなく「こうだったらいいな」というフィクションの面白さ」。ただ、話の腰を折るような設定や描写がなされていては、折角の面白い話も台無しだ。 本書を読むと、時代劇や歴史もののドラマの見方が少し変わる。そして、前より一層楽しくなるだろう。
「本・子ども・絵本 」
【文春文庫】中川李枝子/著、山脇百合子/絵 ¥734
『ぐりとぐら』の絵本でお馴染み、中川李枝子さんのエッセイ。『ぐりとぐら』に登場する大きなホットケーキ、実は『ちびくろさんぼ』からヒントを得ていたのは皆さんご存じだろうか。物心つく頃から読書家だった両親の影響で、本に夢中だったという著者。豊富な絵本と児童書の紹介だけでなく、本を通じて子ども達とどう接するか、どう向き合うのがよいかなど、子育て世代のお母さんのヒントになるような話が多数登場する。子どもたちの自由な受け止め方には大人も寛容な心で。頑なにならず、絵本を読み聞かせている方も大いに楽しむ、そんな姿勢が大切なのだろう。有名どころもそうでない本も。巻末には絵本の詳細情報もまとめられている。
≪今月の担当≫ 商品部 部長 佐藤篤志
「春はあけぼの」とは有名な言葉ですが、桜も咲き始め花粉症の私には寝不足で早起きとは無縁のつらい季節ですが、学生たちには教科書を始め新しい本に出会える季節でもあります。新しいことを知るチャンスが向こうからやってくることは、学生時代を過ぎると少なくなってくるものですが書店はその機会を広げてくれます。見たことの無いページを開くときの高揚感は、その時だけの特別なものです。年を重ねた今なら教科書を楽しく読めるような気がする今日この頃です。
中川李枝子さんのエッセイを読んで、図書館通いを始めた頃の事を思い出していました。本がたくさん読めるの嬉しいのですが、前に借りた本を返さないといけない寂しさが私の場合はセット。そして、図書館まで連れて行ってくれた親のことがやはり一緒に思い浮かびます。
◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆
啓林堂書店ホームページ・外商部ページ(https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/)にて
更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!
「おすすめ児童書」「おすすめの奈良本」5月号は、4月下旬に更新予定です!お見逃しなく!
おすすめ児童書
『おひさまぽかぽか』【福音館書店】 笠野裕一/作
春。おひさまぽかぽか暖かい日。おばあちゃんが縁側にふとんを干しました。ふかふかしたふとんの上にねこがごろん。つられておばあちゃんもごろん。次々と動物たちがやってきてみんな、「ふわー」ごろん。おひさまの匂いがしてきそうな温かい絵本です。
おすすめ奈良本『古代豪族と大王の謎』 【宝島社】 水谷千秋/著 4月11日発売予定
日本の古代国家の形成は、大王(古代天皇家)のみの力により達成されたものではない。彼らと提携し、協力しながら国家形成に貢献し、また反乱を起こし、滅ぼされた豪族たち。彼らの存在なくして、日本の古代史を語ることはできない。日本の古代史は、大王とこれら有力豪族とのせめぎ合いの中で展開してきた。本書ではこうした視点から古代豪族と大王の興亡とその歴史の謎を追う。『継体天皇と朝鮮半島の謎』から6年、古代史ファン必読の一冊です。
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