啓林堂書店メールマガジン

わるいうさぎ 2018.10.1

10月号 2018.10.1
啓林堂書店 https://books-keirindo.co.jp/

LB203、通称「わるいうさぎ」。

わるいうさぎ』(双葉文庫)。著者は中島さなえ。父は小説家の中島らもである。
 本書に登場するのは主に動物たちであるが、これはファンタジーでも、ほのぼのとした愛らしい動物たちの話でもない。少しダークな大人の話だ。

 うさぎのLB203は研究所で生まれ育った実験動物。研究員の言う事を聞かず暴れるため、つけられた名前はわるいうさぎだ。
 ある日、わるいうさぎはラボから逃げ出し外の世界へと飛び出した。逃げ出した先で出会ったのは野狸放団(やりほうだん)のタンバ。行くところのないわるいうさぎは、タンバにつれられ野狸放団のアジトへと向かう。そこには野狸放団を束ねるシモフサ団長とたくさんの狸たちがいた。食べものにありつくため、畑を襲撃することになったわるいうさぎたち。わるいうさぎとタンバは先頭に立って野狸放団窃盗班を率いることになる。だが、先頭は集団の弾よけにされるとても危ない役回りで・・・

 古いしきたりに苦しめられている野狸放団のタンバたちの他、穴に挟まったまま動けなくなったねずみ、飼い主のノモさんにかまって欲しくてたまらない犬のリクなど、わるいうさぎは様々な動物たちと出会う中で、自分の中に欠けているものがあることに気付く。
 同じ研究所にいたうさぎのLB199、そしてわるいうさぎにある言葉を投げかけたノモさんが、わるいうさぎを動かす重要なきっかけをもたらすのだが、迷いのなくなったわるいうさぎが全力をかけて動き始めるラストスパートは見ていて清々しい。最後までぜひ見届けて欲しい。

 表題の「わるいうさぎ」の章をはじめ、クセの強い動物たちが登場する6つの短編小説は、全ての話が少しずつ繋がる構成になっている。「わるいうさぎ」の章に登場したねずみ、狸、犬など、彼らを主役にした各短編では、また違った彼らの一面を見ることができる。
 ねずみはひたすら話が長くてうっとうしい印象だったのだが、過去を知って最初に登場した時の印象がガラリと変わってしまった。ねずみの名前が異様に長すぎる理由もここで判明している。

 生きることの苦しさと、しかしそれだけでは終わらない最後に少しの希望が垣間見える大人の童話集。彼らが一面で語られないところに本書の良さがある。

<今月の私の一冊>

方言でたのしむイソップ物語

【平凡社】  安野光雅 著 ¥1,728

「日本各地の方言を大切に残したい」という著者の思いから誕生した本書は、「旅の絵本」などで知られる画家・安野光雅の新しい試みである。題材は「蟻とキリギリス」や「狼少年」などで知られる古代ギリシャで生まれた説話集 「イソップ物語」。動物を主人公にした寓話である。
方言のため、慣れ親しみのない地方の言葉は少し読みづらいところもある。だが、各地方の方言で語られる物語は生きた言葉の印象を強く与える。親しみ、迫力……方言が普段目にする標準語とはまた別の独特の味わいをもたらしている。
最後の章に収録されている「獅子と狐の事」は、様々な動物たちが獅子を見舞う中、なぜ親交の深い狐だけ家を訪れなかったのか、という話。親交が深かったゆえの理由に納得と衝撃が走る内容である。
なお、「下心」として物語の最後に添えられている著者の見解、コラムで語られる著者と「イソップ物語」との出会いにも要注目。
読んでみると意外と知らない話も多かった。イソップ物語を読み返してみるのも面白いのかもしれない。

ミニコラム「私と本」

≪今月の担当≫ ジュンク堂書店奈良店
社員 小川岳志

 自分の部屋には買ったまま読んでいない本が積んである。いわゆる積読本だ。本を読むのは速いとは言えないし、読書に割く時間も一日に一時間あれば多い方だ。だから一冊を読み終えるのに時間がかかる。それでも読みたいと思った本は買ってしまうので、積読本は増えていく。
 もちろん読みたい気持ちはやまやまで、どうにかしたいと思ってはいるが、いつになったら読めるかわからない。もっと読むスピードを上げれば問題は解決するのでは?と思い、速読の本を買おうかとも考えるが、結局それも積読本になりそうな気がしてならない。
 世の人達は買った本をちゃんと全部読めているのだろうか?気になるところだ。

Chat&Chat

 読書の秋。たまにはいつもと違うジャンルに挑戦してみようと、本格ミステリの本を1冊購入。読みやすいのですが、序盤の前ふりが長く、面白そうな気配がするのにまだ事件が起きません。ああ、早く面白いところまでたどり着きたい! 2センチほどある分厚い本、じっくり読み進めていこうと思います。

◆外商部おすすめの児童書・奈良本のご紹介◆

啓林堂書店ホームページ・外商部ページ(https://books-keirindo.co.jp/gaisyoubu/)にて

更新中の「外商部おすすめの奈良本」「おすすめ児童書」をご紹介!

「おすすめ児童書」「おすすめの奈良本」11月号は、10月下旬に更新予定です!お見逃しなく!

おすすめ児童書

めんたべよう!』【福音館書店】  小西英子/作

絵本を開くと「きょうはうどんをたべよか! うどんやさんでなにたべたい?」
うどんやさんに入るといろいろなうどん! 次はスパゲッティやさん、おそばやさん、ラーメンやさん。あれもこれも全部食べたい!
思わずのどがゴクリッとなる26種類のめんが登場します。目でたっぷり味わって下さい。

おすすめ奈良本
天皇陵古墳を歩く』 【朝日新聞出版】 今尾文昭/著 10月15日発売予定

奈良・大阪に点在する大型前方後円墳はその大多数が天皇陵に治定、立ち入りが制限されてきた。近年、研究者への限定公開が進められている。第1回の公開から立ち合ってきた著者が主要な大型古墳の周囲を踏査。年代観を示す。

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